おしどり贈与が向いている人とは?そのメリット・デメリットと活用の注意点とは?
2024年10月01日
相続対策として「やっておけばよかった」と後悔されることが多いのが、事前の準備や贈与です。相続が発生してからでは、贈与などの手段が使えず、相続税や争族(相続をめぐる家族の争い)のリスクが高まってしまいます。この記事では、そのような対策の一つとして「おしどり贈与」について、税理士が詳しく解説します。
1. おしどり贈与とは
「おしどり贈与」とは、「贈与税の配偶者控除」の通称で、配偶者に居住用不動産(自宅)を贈与した場合に、最高2,000万円まで贈与税が非課税となる制度です。加えて、通常の贈与で適用される110万円の基礎控除も合わせると、合計で2,110万円まで非課税にできます。
「おしどり贈与」という名前は、20年以上結婚生活を続けた「おしどり夫婦」を連想させることから付けられています。この制度を使えば、居住用不動産そのもの、あるいはそれを購入するための資金の贈与が可能です。
2. おしどり贈与を受けるための適用条件
おしどり贈与を受けるには、いくつかの条件を満たさなければなりません。ここでは、代表的な3つの条件を説明します。
2-1. 婚姻期間が20年以上
この制度は、婚姻期間が20年を超えている夫婦にのみ適用されます。婚姻期間は戸籍謄本で確認されますが、端数が1年未満であれば切り捨てられるため、19年11か月の結婚期間では適用されません。
2-2. 贈与する財産は居住用不動産またはその購入資金
贈与される財産が、居住用不動産であるか、居住用不動産を取得するための金銭でなければなりません。自宅の一部を事業に使用している場合でも、居住用部分が90%以上であれば、全体を居住用不動産としてみなすことができます。
2-3. 贈与を受けた配偶者が実際に住んでいること
贈与を受けた配偶者は、贈与後もその居住用不動産に住んでいる必要があります。具体的には、贈与された翌年の3月15日までに、その不動産に住んでいる必要があります。
3. おしどり贈与のメリット
おしどり贈与を活用することで、いくつかのメリットが得られます。
3-1. 相続税の負担を減らす
財産の偏りがある夫婦の場合、財産を配偶者に移すことで、相続税の負担を軽減できます。特に、配偶者の一方が多額の財産を持っている場合、贈与を通じて財産を分配し、相続時の税負担を軽減できます。
3-2. 生前贈与加算の対象外
通常、生前贈与は相続発生前の7年間の贈与が相続財産に加算されますが、おしどり贈与はこの加算対象外です。したがって、贈与した財産が相続財産に加わることなく、相続税を節約できます。
3-3. 自宅売却時の税金を節約できる
おしどり贈与を活用して自宅を配偶者と共有名義にした場合、将来自宅を売却する際、居住用財産の特別控除を夫婦それぞれに適用することができ、売却益にかかる税金を減らせます。
3-4. 残された配偶者が安心して住める
贈与された配偶者は、その自宅に住み続けることができます。相続が発生しても、残された配偶者が自宅に住める安心感を得られます。
4. おしどり贈与のデメリット
おしどり贈与にはいくつかのデメリットもあります。
4-1. 財産額によっては損になることもある
贈与には不動産取得税や登録免許税がかかります。場合によっては、これらのコストが相続税対策としての効果を打ち消してしまうこともあるため、贈与前には事前のシミュレーションが必要です。
4-2. 先に配偶者が亡くなった場合
おしどり贈与を受けた配偶者が先に亡くなると、贈与された財産が相続税の対象となり、贈与の効果が薄れる場合があります。
4-3. 不動産贈与のコストが高い
不動産を贈与する場合、不動産取得税や登録免許税がかかり、相続よりもコストが高くなることがあります。
5. おしどり贈与が向いている人
おしどり贈与が向いている人は、以下のようなケースです。
- 配偶者にまとまった財産をあげたい人
- 配偶者の相続税の負担を減らしたい人
- 配偶者が住む自宅を確保したい人
- 住み替え予定があり、将来の売却時の税金を節約したい人
6. おしどり贈与の手続き
おしどり贈与を行うには、以下の手続きが必要です。
6-1. 贈与契約書の作成
まず、贈与契約書を作成します。これは贈与の事実を証明するために重要です。
6-2. 贈与登記の申請
法務局に贈与登記を申請し、不動産の名義を変更します。
6-3. 贈与税の申告
贈与税の申告は、贈与を受けた翌年3月15日までに行います。贈与税が発生しない場合でも、申告が必要です。
7. 注意点
おしどり贈与には以下の注意点があります。
- 同一配偶者からの贈与は1回のみ:再婚しても適用は1度きりです。
- 二次相続の対策:二次相続を考慮せずにおしどり贈与を行うと、結果として相続税が増える可能性もあります。
8. おしどり贈与に関してよくある質問
ここでは、おしどり贈与に関するよくある疑問に対して、わかりやすく回答していきます。
まず、「おしどり贈与」を活用する際には、住宅ローンが残っている場合や、現金の贈与など、いくつかのケースが考えられます。加えて、別居中や離婚後の状況でも適用できるかどうかという疑問もよく寄せられます。それぞれのポイントを確認していきましょう。
住宅ローンが残っている場合の影響
おしどり贈与を行う際に、贈与対象となる住宅に住宅ローンが残っている場合は、通常の贈与とは異なる税計算が適用されることがあります。例えば、住宅ローンの残高分が贈与した配偶者の負担となる場合、それが譲渡とみなされ、贈与を行った側にも所得税や住民税が課税される可能性があります。
また、贈与を受ける側も、住宅ローンを控除した後の不動産評価額が贈与税の課税対象となるため、時価が高い場合は予想外に高額な贈与税が発生する可能性がある点に注意が必要です。贈与を検討する際には、住宅ローンの残高や評価額をしっかり確認しておくことが大切です。
現金の贈与について
おしどり贈与は、居住用不動産そのものを贈与するだけでなく、その不動産を購入するための資金を贈与する場合でも適用が可能です。この場合、贈与を受けた配偶者が、贈与された年の翌年3月15日までに実際に居住用不動産を取得し、その後も引き続き住む予定があることが条件となります。
現金での贈与は、比較的手続きがシンプルであり、家を購入するために資金を用意したい場合には有効な選択肢です。ただし、購入後もその不動産に居住し続けることが前提となるため、転居などを予定している場合には注意が必要です。
別居中でも適用できるか?
おしどり贈与の適用には、同居が必須条件ではありません。つまり、夫婦が別居していても贈与の条件を満たす限り、この特例を利用することが可能です。婚姻期間が20年以上あり、贈与された居住用不動産に住むことが確認できれば問題ありません。
ただし、贈与された配偶者がその不動産に実際に住むという条件は変わらないため、贈与後はその不動産に居住する意志があることが求められます。
離婚後の贈与について
贈与後に夫婦が離婚した場合、「おしどり贈与」の適用が取り消されることはありません。贈与時点で婚姻期間が20年以上であれば、離婚後であっても贈与そのものは有効です。したがって、贈与が無効になったり、税金が再び課税されたりすることはありません。
ただし、贈与された不動産の管理や売却などについては、離婚後の財産分与に関する協議が必要になる場合もあるため、その点には注意が必要です。
まとめ
おしどり贈与は、税制上非常に有利な特例ですが、個々の状況によっては必ずしもメリットばかりではありません。事前にデメリットやコストも考慮し、最適な選択をすることが大切です。専門知識が必要な場面も多いため、具体的な適用方法については税理士に相談することを強くお勧めします。